頬に肉があっても綺麗に見える顔は、何が違うのか
「頬の肉を落とせば綺麗になる」「深部の頬を整理すればVラインになる」といった単純な公式が定説のように語られています。ですが実際の診療では、問題が肉の「量」ではなく「位置」である場合のほうがはるかに多いです。
若い顔はボリュームが上(目の下・頬骨)に留まる逆三角形の構造を取ります。時間が経つと同じボリュームが下へ移動し、正三角形の構造に変わります。美容医学ではこれを若さの三角形(Triangle of Youth)と呼びます。1990年代後半から形成外科・美容医学で扱われ、2007年のRohrichとPessaの研究以降、顔の老化を説明する最も基本的なモデルとして定着しました。
若い顔ではボリュームが顔の上部に留まります。目の下、頬骨、前頬に重心が乗り、逆三角形の形になります。時間が経つとボリュームが下へ移動し、頬骨の下は痩せ、口角の横と顎のラインの上に重さが乗ります。
この変化の本質は脂肪が単に流れ落ちることではありません。脂肪を留めていた固定靭帯(retaining ligament)が緩み、その下の支持層であるSMASの張力まで落ちて、複数の層の変化が同時に起こる構造的な現象です。
顔は皮膚一枚ではありません。皮膚 → 皮下脂肪 → SMAS → 骨膜 → 骨と、本のページのように層が重なっています。SMASは最も重要な支持層の一つで、木の枝のような固定靭帯がその層を留める役割をします。
この二つが弱まると、上にあったボリュームも一緒に下へ流れ始めます。外から見える肉の量より、内側の支持構造がどうなっているかを先に見る理由です。






頬の肉はどれも同じではありません
ボリュームが移動するということは、頬の肉が複数の領域に分かれているということでもあります。解剖学的に顔の脂肪は一つの塊ではありません。複数の脂肪コンパートメントに分かれ、隔壁と固定靭帯が境界を保っています。

あったほうがよい部位
前頬(medial cheek fat)。目の下から頬骨の前へつながる部位です。ここがあると顔が明るく見えます。逆にへこむと暗く疲れて見えます。
頬の中央(middle cheek fat)。頬骨のすぐ下に丸いボリュームが乗る部位です。顔に立体感が出て、笑ったときに上へ集まるハイライトを作ります。

あると印象を重くする部位
口角の横(nasolabial fat)。ほうれい線の横へ下りてくる部位です。多すぎたり下垂したりすると口元が重く見え、笑ったときにほうれい線が深く見える原因にもなります。
顎ラインの上(jowl fat)。顔の下部にかかる部位です。ここにボリュームが溜まると顎のラインがぼやけ、顔の下半分が広く重く見えます。
つまり上の二つは顔を生かすボリューム、下の二つは多くなると顔を重くする部位です。解剖学的にも属する層が異なり、老化の進む方向と速度も部位ごとに違います。
前頬と頬の中央を支える内側の構造が弱まったり、それを留めていた固定靭帯が緩むと、その上の表層脂肪まで一緒に下へ流れ始めます。外からは「頬がたるんだ」としか感じませんが、内側ではすでに構造的な変化が始まっています。
外からは同じ「頬の肉」に見えても、顔を持ち上げる頬と、顔を下へ引く頬がありうるという意味です。

綺麗な頬は「上」にあります
頬に肉があっても顔が明るく見える人の共通点は単純です。目の下から前頬へつながる面が滑らかに残っていて、頬骨のすぐ下の中央に丸いハイライトがあり、笑ったときに頬が下へ広がらず上へ上がること。良い位置に留まっているからそう見えるのです。
こうした顔で無闇に頬の肉を減らすと、顔は小さくなるかもしれませんが、顔を生かしていたボリュームまで一緒に抜けます。結果として疲れて見えたり、どこか空虚な印象が残ることがあります。
頬の施術は量の問題ではなく、位置の問題、方向の問題、層の問題です。守るべき頬、整理すべき頬、上げるべき頬があります。
この主題は一度では終わりません。全3編で扱います。次は、すでに下りたボリュームにどのリフティングが合うかを整理します。



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